神経内科

脳血管障害 cerebrovascular disease

脳血管障害(すなわち、脳卒中stroke)とは、脳梗塞(cerebral infarction)および脳出血(cerebral hemorrhage)の総称です。このうち、脳梗塞とは脳に分布する血管に血の塊(血栓)などが詰まってしまうことで、脳の一部が低酸素状態に陥り障害されてしまう病気です。
起こす症状は障害部位によって様々ですが、突然の発作・旋回・頭部の捻れ(斜頸)・失明・意識低下〜消失などがあります。
MRI検査が小動物医療に普及するまではこの病気は犬猫にはほとんどないとされていましたが、近年はその診断数が世界的に多くなっています。しかし、そのような中にありながら犬猫の脳血管障害が人医療のように正確に早期診断される機会は非常に少なく、臨床経過や死後剖検から診断されることがほとんどであり、治療も後手に回る傾向にあります。
当院ではMRIおよびCT装置がいつでも利用可能であることから、急性期の脳血管障害の早期発見が可能であり、いち早く治療を開始することで、脳神経を少しでも多くの障害から救うことができます。
また、脳血管障害を起こす原因となる基礎疾患(例えば心臓病、血液凝固障害、ホルモン異常、腫瘍など)の診断も当院で可能です。
以下に、急性期の脳血管障害(脳梗塞)の診断に成功し、その結果良好な治療経過をたどった例を紹介します。

症例
日本猫(屋内飼い) 推定16歳 避妊メス
第0病日
自宅にオーナーさんが帰ったところ、ふらつき、起立困難、左側への斜頸、全身ローリングと左右瞳孔散大を発症しており当院に緊急来院。
身体検査、脳神経学的検査、血液検査の結果および、急性の発症であることから、頭蓋内の出血・梗塞および外傷を疑い、心臓エコー検査を事前に行った上(※)で頭部MRI検査を実施。
※この時の心臓エコー検査で肥大型心筋症が発見される。
頭部MRI検査の結果、延髄の左側に脳梗塞を示唆する所見を認めた。
また、MRI検査と同時に行った脳脊髄液検査では、炎症および出血を示唆する所見はなかった。
以上から、延髄ラクナ梗塞(急性期)と診断し、血栓形成抑制治療と静脈点滴や栄養チューブによる支持療法を開始。また、肥大型心筋症は脳梗塞の原因になりうることから、その治療も同時に開始。
血栓溶解治療は、出血性梗塞(梗塞により脆弱になった脳血管へ血液が再灌流し出血を起こす状態)を起こすリスクを考慮し、実施せず。

第1病日
既に改善傾向を認め、ふらつきながらも歩行できる。
第6病日
歩行状態は徐々に改善しており、瞳孔も左右とも閉じられるようになった。また自力で食事もとることができているので、翌日に退院。
第12病日
再診。高い所へ飛び乗れる所まで回復。
その後、第22病日まで神経症状の再悪化もなく、肥大型心筋症の治療を継続している。

考察
本症例は、脳の中でも最も重要な部位である脳幹(その中の延髄)に梗塞が発生し、急性に重度の神経症状が認められました。延髄には呼吸、心血管など生命維持の根幹に関わる機能の中枢がある部位であり、命の危険もありましたが、本例は早期診断と早期治療開始により回復徴候を認めました。

動画1:来院直後
横たわった状態から体を起こすことができず、首は左側に捻れしまっています。
動画2:第1病日(発症からおよそ36時間)
この時点でかなりの改善はありましたが、ふらつきと頭部の揺れが確認されています。
動画3:第12病日
ふらつきは大分改善されており、頭部の揺れはありません。

本症例の担当獣医師
緊急来院時:古川
神経科担当:大竹
循環器科担当:遠藤